コラム

第2話 最初に与えられた不可解なテスト

「これは検証というよりテストだと思ってもらってもいい。

もしこのテストに耐えられたら、トレードの秘訣の授業にはいろう」

 

神山が出したテストはこうだ。

 

「君のお金で毎日、適当なところで株を売買するんだ。
そして5%上昇してももし5%下がったとしても手仕舞いするんだよ。
そのほかの理由では絶対手仕舞いしたらいけない。

 

このルールを2ヶ月以上続けられるかい?
そして手数料抜きで損益がプラスに転じたら合格としよう」

 

テストと聞いたので、何かエンジニアの腕を確かめる試験でも

あるのかと考えていたリョウは、

この内容を聞いたときには意味がわからなかった。

 

こんなことをして損をするのは目に見えていたし、
僕をからかっているのかもしれないと頭に血がのぼった。

 

しかし、こんなチャンスはめったにないと思い直し、
勇気を振り絞って「やります」と答えた。

 

返事をしたものの、こんな方法で勝てるはずがない。
今まで試行錯誤をしても損失を出し続けていたのに、
こんな適当な売買をしたら俺は破産だ。

 

もし、資金がなくなってしまったらどうしようと、困り果ててしまった。
そこで何とか資金を無くさない方法を考えることにした。

 

リョウは仕方なく銘柄の中から、一番安く買えるものを選んだ。

 

最初は、朝の寄り付きで買った!
すると案の定、数日がたち5%の損失が出てしまった。

 

「くそ~、こんなこと了解するんじゃなかった。トレード

の秘訣を教えてくれるどころか、地獄に落とすつもりじゃね~か」

 

そういいながら何回か続けた。

 

10回ほど売買をやってはみたものの、ほとんど負けつづけた。
10回の売買で勝ったのは2回ほど、リョウは呆れ果ててしまった。

 

リョウは神山の言ったことばを思い出した。
「そうだ、検証だ。神山さんは、検証が大切だと言っていた。」

 

絶望的な気分に打ちのめされながらも、
自分ができる能力を考え、プログラムを組んで検証をしてみることにした。

 

「驚いた、何回も売買を繰り返していると
損益がほとんどチャラになるじゃないか。

 

ようし、これならいつかは偶然にプラスになるときもくる。

そのときに売買をストップをすれば、俺の勝ちだ!」

 

目標が明確になったリョウは、じっと我慢して成績を監視続けた。

 

数ヶ月がたち、リョウは少し利益が出たところで売買をストップした。

 

今まで上司から言われたことだけをこなしていたリョウにとって、
自分で戦略を考え、目標を成し遂げたのは初めての経験だった。

 

次の日の朝、再び神山の家に勇んで行った。
リョウの成績を見ると、神山は微笑みながらリョウを見た。

 

「損失の恐怖に耐えてよく我慢したね。素晴らしい。
人のせいにして逃げ出さずに、続けられるとは思わなかったよ。
でも君はどうしてこの苦難を乗り切れたんだい?」

 

「実は検証をしてみたんです。
そしたら、売買を繰り返していくと
チャラに近づくことが分かったんです。

だから安心して売買を繰り返せるようになりました。
そして偶然に利益が出るときを待っていたんです」

 

「うん、それは大数の法則といって、
回数を重ねていくと本来の勝率に近づいていくんだ。

 

君なら、これから私が教えることをよく理解して
トレードをマスターすることができるだろう。

 

ところで、君はもうすでにトレーダーとして成功するための
重要な4原則を学ぶことができたんだよ」

とニコニコして言った。

 

驚いているリョウに、彼は話を続けた。

 

「トレーダーとして成功したいなら、4つの原則に従わなければいけない。

何かをやろうと決めたら、その目標を明確にすること。

自分の持っている、あるいは周りにある資源を有効に生かすこと。

そして目標に向かって自分に合った方法で戦略を立てること。

それがうまくいくかどうかの妄想から発生するネガティブな感情を
コントロールして、目標をやり遂げる情熱を維持すること」

 

リョウは、嬉しさと同時に、
最初のテストに合格した安心感からほっとした。

 

「トレードを始めるとき、自分の資質や環境とマーケットを
知り、総合的に自分をマネジメントするアイディアを
考えられるかどうかがもっとも大切なんだ。

 

そこが勝者と敗者の分かれ道ともいえる。ほとんどの人は、
最初の試練でいとも簡単に諦めてしまう。

 

こんなリスクはとりたくないってね。
中には、テストを出した私を悪者にするか、
トレードの秘訣を教えないことに恨みさえするんだ。」

 

「そうですね、私も一時は、
騙されたんじゃないかと疑いかけましたから、
誰もがそうなるのも不思議ではないです」

 

「どんなトレーダーも自分や人、自然の法則、戦略を
信頼することなしに成功することはできない。

 

この成績結果を見てごらん。君が行った検証結果から
自分が立てた戦略を信じて、売買を続けた結果勝ち得たものだ。

 

そして、私を信頼することができなかったら
このゲームそのものを投げ出していただろう。

 

この信念を上手に活用していけば、
君はこの世界で夢をかなえることができる。

 

「そうか、今まで自分が成功できないのをまわりのせいに
してきたけど、もっといろんなことを信頼して、
頑張れば成功することができるんだ」

 

そういうと、東京に出てくる前には、
うざいと思っていた両親の顔が浮かんだ。

 

リョウは今まで親や上司のいうことには耳も貸さず、
よく考えずに行動をしてきたのだった。

 

涙を浮かべそうなリョウに神山は語りかけてきた。

「君さえよかったら、しばらくここに通ってくるといい。
横で私のトレードを見ながら、検証の手伝いをしておくれ。
その間にいろんなことを教えようじゃないか」

 

将来が明るくなったリョウは、
すぐさま「もし神山さんがよろしければ、
そうさせてください」と答えた。

 

こうして、リョウの運命を変える
トレーダー訓練がスタートしたのだった。

 

 

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